有名タレント中居正広氏のフジテレビ所属女性アナウンサーを巡る事案(以下、「本事案」という)について、第三者委員会は3月31日公表の調査報告書(以下、「報告書」という)において、当事案をフジテレビの「『業務の延長線上』における性暴力であった」と認定した(報告書P54)上で、カスタマーハラスメントであると位置づけた。
報告書は本事案について、次の通り言及している。
※尚、報告書内において、「CX」は「株式会社フジテレビジョン」を、「有名タレント」は「中居正広氏」を指す。
本事案は、CX の有力取引先である有名タレントによる女性 A に対する性暴力であり、人権侵害行為である。
また、取引先から社員に対する人権侵害であるため、カスタマーハラスメントとして位置づけられる。カスタマーハラスメント(以下「カスハラ」という)は、顧客や取引先などからのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるものをいい、典型例は、顧客や消費者からの過剰なクレーム等である(BtoC)。しかし、2022 年以降、徐々に、取引先役職員からのパワーハラスメントやセクシャルハラスメント(BtoB)についてもカスハラとして捉え、企業が社員を守るべきであるとの共通認識が形成されつつあり、本事案もその一類型と位置付けられる。(P55)
報告書はカスハラの定義を2022年に厚生労働省が策定した「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」に則た上で(※マニュアルP7参照)、中居氏の行為を取引先からのカスハラと位置付けている。「業務上関係を持つあらゆるステークホルダーのハラスメントから従業員を守る義務がある」という社会の認識をカスハラ認定の根拠にしていることが読み取れる。
そして、報告書はフジテレビの一連の対応について「社員の安全配慮義務や被害者救済の観点からの検討を行っていなかった」と指摘し(P58)、フジテレビに「取引先や取材先からハラスメントや不当要求を受けたときの現場対応、相談先、サポート体制などを構築し、これらをまとめた現場マニュアルを配付して研修周知するなど、カスハラから社員を守ること」を求めた(P264)。
また本事案の背景と、本事案によりフジテレビが危機的状況に陥った要因として、報告書は次のように分析している。
~取引先からの「カスタマーハラスメント」の問題は、いずれも日本企業がここ数年で急速に実務対応を求められるようになった、「過渡期」のテーマであった。しかし、その「過渡期」において、事業環境の変化やステークホルダーの要求水準の高まりを注視せず、時代の変化に即応して経営をアップデートしてこなかったことが、今の事態を招いた。(P267)
この記述には、カスタマーハラスメント対策対策を講じないことが社会から厳しい目を向けられる要因となり得る状況が、正に反映されている。
本事案は、「顧客に限らず、ハラスメントの主体が業務上関係を持つ相手である場合、企業が安全配慮義務を負うこと」「カスハラに対する社会の意識が高まっており、カスハラ対策を怠ると経営上の重大なリスクとなり得ること」の二つを示している。経営上の危機管理として、カスハラ対策の体制整備は急務である。